船体データ(1)




船体構造

 ここでは外宇宙都市船の基本構造について概略を述べる。

 まず、都市船全体の要であり回転軸となるメインシャフトがあり、メインシャフトの前後からは周囲8方向へ放射状に伸び、都市船の構造材と人・物資運搬用通路としての役割を兼ね備えるサブシャフトが接続されている。
 さらにそれぞれのサブシャフトは、緩やかな曲線を描いてメインシャフトをぐるりと取り囲む8枚のデッキプレートに接続されている。

 8枚、すなわち8区画のデッキプレートによって構成される円筒がメインシャフトの回転と連動することで遠心力を発生させ、これを疑似重力として利用している。
 それらを宇宙線を防ぐための分厚い金属殻や惑星への大気圏突入にも耐えうる耐熱反射装甲、デブリの衝突などを想定した耐衝撃装甲などからなる複合装甲ですっぽりと包みこむ事で船を守っているのである。
 なお、円筒部分の直径は約6.5km、長さ約20kmに達する。

 メインシャフト内中央付近、及び進行方向先端にはそれぞれメインブリッジ、サブブリッジがあり、交代制で常時クルーが船の運航を管理している。
 とはいえ、通常時の都市船運航は自動操縦機能によって行われており、クルーへの負担が極力軽減されるよう配慮がされている。
 メインシャフトの進行方向後方はデッキプレートから突き出す形でメインシャフトが伸びておりデッキプレートと少し距離を開けてエンジンモジュールが接続されている。


推進機構

・対消滅機関 メイン1発、サブ3発
・光帆(ライトセイル) メイン2基、サブ2基
・イオンエンジン メイン1発、サブ2発

 都市船後方に接続されたエンジンモジュールにはNWにおいて長年使用され続け、十分な技術の蓄積があり信頼性が高いと言える対消滅機関が採用されている。
 本都市船の機関システムに求められたのは安定性の高さと航続距離の長さであり、機関出力を効率良く推進力へ変換することに重点をおいてシステムの設計が行われた。
 サブ機関が3発用意されているのはエンジントラブルへの対応を意図したものであり、原則として一度に稼働する推進機関は常に1発のみである。ただし緊急時においてはこの限りでは無い。

 都市船本体前方に設置されている光帆(ライトセイル)は太陽などの恒星から放射される自然光や、宇宙開発拠点コスモス2で研究開発された推進用レーザーの利用を考慮に入れて装備されたポリイミド樹脂製の超薄膜による巨大な帆である。
 アクチュエーターとモーターによって展開・収納、及び光源に対して帆の向きを調整する事が可能であり、その用途としてはテラからの発進時加速、及びテラへの帰還時減速の際の補助推進装置、そしてテラから遠く離れる超長距離航行の際には主推進装置としての利用や、進行方向上の光源に対して帆を張る事による減速装置としての利用などが挙げられる。
 図中に示されているものは展開途中の状態であり、最大展張時には都市船本体をすっぽり覆い隠して余りあるほど巨大な帆となる。帆の表面の一部には薄膜太陽電池が貼られており、これにコスモス2の推進用レーザーを照射する事で外部から電力供給を受ける事が出来る。

 そもそも光帆は太陽などの恒星から放射される光、あるいは人工的なレーザー光を薄膜によって形成される帆に受けた際、光を反射する事によって発生する反作用を推進力とする器具である。(コスモス2の推進用レーザーは本来、宇宙船に装備された太陽電池パネルに照射する事によって電力を供給し、それによって推進機関を稼働させるためのものであるが、ライトセイルへの照射で推進力を得ることも可能である。)
 その最大の特徴は、外部から推進力の供給を得られる、という1点に集約されるだろう。少なくとも光帆に関しては燃料消費を必要とせずに加減速が可能なのである。
 外界から隔絶された環境内に全てを積み込まねばならない宇宙船にとって、この燃料という制約からの解放によって得られる恩恵は計り知れない。
 もちろんいいことばかりではなく、従来の対消滅機関に代表される推進機関と比較すればその推進力は極々わずかな物である。
 また、光帆にレーザーを受けて光圧で推進する場合、特に恒星間のような超長距離移動を目的とするならばレーザー光の減衰などを考慮し、出発地点に置くレーザーは極めて威力の高い物にせざるを得ない。
 推進用という名目であっても、兵器への転用が極めて容易である、という点は問題であり、従って、NW全域が戦争状態に置かれる恐れがある今の状況では都市船には光帆による推進方法は原則使用しないものとする。
 しかし、長期間の加速を続ける事が可能な環境であればわずかな推進力であっても十分な速力を得る事は可能であるし、コスモス2の推進用レーザーを併用しイオンエンジンを稼働させる事によって加速力を引き上げる事も可能である。
 従って、この光帆が真価を発揮するのは戦いが終わり平和な時代になった後、この都市船が冥王星以遠の外宇宙へ新天地を求め長い旅に出る時であろう。
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製作:満天星国