生活インフラ(2)


U行政

 都市船の収容人数は最大1000万人であり、規模としては小規模な藩国のそれに匹敵するものである。
 それだけの人数が外界と切り離された閉鎖空間の中で長期間に渡って生活していくのはそれなりに大変なことである。
 ざっと挙げるだけでも警察、消防、都市船内の設備維持、環境保全、福祉etc.と多岐に渡る事柄に対処する必要があるだろう。
 従って、都市船の運航には行政の存在が欠かせないのである。

 原則として、都市船内の行政は避難元の藩国から行政単位で都市船に乗り込んでもらう事で各国の元々の行政組織を踏襲する形式を取っている。
 これは、各藩国によって文化・風土にそれぞれ特色があり、画一的な行政機構では十分な機能を発揮できない可能性や元の藩国船に残る人々と都市船に移り住んできた人々との間で格差が生じないようする必要性が考慮された結果である。
 従って行政組織の運営に必要な建築物と仕事に必要な事務用品など基本的な備品は都市船内に備え付けられているがそれ以外で必要な物は各藩国で用意してもらうことになる。

 都市船内の行政において提供されるサービスは、基本的には各藩国におけるそれと同様である。
 具体的には戸籍・住民票の管理、公共設備の管理及び維持、警察、消防、税金、福祉などが挙げられるだろう。
 それらに加えて、閉鎖空間である都市船では後述する船内の環境保全が行政の担う大きな役割となっている。

1警察・消防

 基本的には、前述の通りである。すなわち、各藩国の警察・消防の組織からそれぞれの都市船へ乗り込んでもらう事で、可能な限り元々の藩国での状態に近い形で職務に就いてもらうようにする。
 加えて、消防に関しては閉鎖空間である都市船内において火災が発生した場合、大気成分のバランスを損ない大惨事につながる危険性が高いため都市船内ではコンロなどは全てIHヒーターとするなど極力火の使用を避けるとともに随所に消火剤の噴射装置を設置するなど火災を防ぐ工夫や、万が一火災が発生した場合でもその区画をシャッターで封鎖する事により被害を局限する工夫が施されている。
 これらのシステムは宇宙開発拠点コスモス2で実際に運用されていた実績があり、信頼性は高いと考えられる。

2都市船内環境保全

 都市船内の水、空気(大気成分のバランス及び気圧)、温度、食料の管理、防疫が含まれる。
 閉鎖された系の中では全ての資源をリサイクルすることが必須であり、この環境保全に関わる一連のシステムは都市船の生命維持機能の根幹を為す重要なシステムであり、その維持は行政の果たす役割の中でも最も大きなものとなっている。このシステムは惑星防御艦隊基地で使用されたものに改良を加え、より長期間の無補給での生命維持を目指したものである。

3食料の備蓄・配給・購買

 都市船内で生産された食糧や緊急時用の保存食の他、都市船内で生産の困難な塩、加工食品(ハム・ソーセージなど)、魚介類、嗜好品としてお茶やコーヒーなどを中心に避難中の備蓄が行われているが、その内訳は都市船によって異なる。
 非常時においては備蓄を解放し配給が行われるが、平時には一部を購買制によって分配している。購買に関しては各国の企業や商店に協力を要請し、また適正な価格が維持されるよう各国政府へも協力を要請するものとする。
 また、都市船の運営が軌道に乗るまでは併走する藩国船/都市船間で食料の供給が行われる他、将来的には各都市船同士や藩国船との間で生産品の交易を行えるよう目指している。

4都市船内設備維持

 宇宙船内の施設、設備の維持である。
 先に述べた資源の循環システムの保全に加え、宇宙船船体のメンテナンスも行われる。特に宇宙線による放射線被ばくを防ぐため、外壁のシールド保全は重要である。

5医療

 基本的には地上におけるそれと同様である。
 それらに加えて、他の藩国船との間で物資や人をやり取りする際の防疫や宇宙線による放射線被ばくなど宇宙特有の症状に対応可能な専門スタッフや、慣れない宇宙環境や逃げ場の無い閉鎖された環境に対するストレスを受ける人が多い事が想定された事からメンタルケアを担当するカウンセラーが配置されている。

V居住施設

 居住区は、なるべく収容人数を上げるため回転するシリンダーの内部に1部屋3LDKのアパートをずらりと並べた形状をとっている。
 各部屋内には寝台、机、緊急時用の固定シートや紐を引っ張ると内蔵されたボンベによって一瞬で膨らみ緊急避難用に使えるレスキューボールなど基本的な家具が一通り備え付けられているほか、各部屋を画一的な設計とすることで製造工程の簡略化を図っている。
 入居は1部屋に一世帯(4〜6人)を基本とし、その他のケースについてはルームシェアなどで対応される事を想定しているが、極力柔軟な対応が可能であるよう、実際の運用方法は各都市船の行政機構に委ねられている。

 居住区内には乗員の家となるアパート群の他に、商店や行政の窓口、後述する各種娯楽施設が設置されており、なるべく元の藩国での生活に近い暮らしを営めるよう配慮されている。
 また、居住区内での移動手段は基本的には元の所属藩国での物に準じる。
 ただし今回外宇宙都市船に乗り込む予定である各藩国は帝國の高物理域に属する藩国であり、それらの国々では既にらうーるカーが流通している事から、居住区内の交通手段としてらうーるカーが導入されている。
 実際、排気ガスも出さずクリーンな交通手段として都市船内での利用に適していると言えるだろう。

W娯楽施設

 国によって差があるため一概には言えないが、都市船乗船者の大半にとっては宇宙へ行くのはこれが初めてであると予想される。
 初めて訪れる宇宙、慣れない環境は最初こそ楽しいかもしれないが、他に行き場の無い船内で長期間の生活を行う事や郷愁の思いからストレスを溜め込んでしまうこともあるだろう。

 そのため、ストレスの発散とリフレッシュを目的に居住区内各所に公園が設置されている他、トレーニングジムやプール、映画館、電子図書データベースによる図書や文化資料の閲覧サービスが行われている。
 さらに、居住区内の一角には楽器演奏会、ライブ、ミュージカル、演劇、コント等々、多目的に利用可能なコンサートホールが建設されている。
 また、アクティビティの一種としてメインシャフト内の無重力区画を利用した宇宙遊泳体験施設が設置されている。
 スペースに限りがある事と前述の通り無重力空間に長時間いる事はあまり健康に良くないことから利用可能時間には一定の制限があるが、重力のくびきから解き放たれ宙に舞うあの感覚は、一度は体験してみる価値があるだろう。

 また、コスモスがコスモス2に改修した際に新たに設置され、観光スポットとして人気を博した温泉施設がここでも設置されている。
 温泉内のデザインは各都市船によって異なるが、いずれも各都市船乗船者達の出身藩国を意識したデザインとなっている。

X非常時用施設

 人為的な物かそうでないかを問わず、外宇宙都市船がなんらかのトラブルに巻き込まれ、破壊を受ける可能性も考慮する必要がある。
 本都市船においては生活インフラや非常時の生命維持システム、避難施設に関してFVBからノウハウを導入し、設計を行った。FVBでは過去に宇宙施設に攻撃を受けるなど大規模な災害を経験してきており、その際の生活空間の破壊への対応や救護活動に関して高いレベルのノウハウを保有しているためである。

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製作:満天星国